直美(ちょくび)という言葉が定着しました。初期研修を終えてそのまま美容医療へ進む選択のことです。批判的に語られることも多い一方で、選ぶ人は確実に増えています。

私たちの立場を先に言ってしまうと、美容だから悪い、という話ではありません。危ないのは美容そのものではなく、選び方のほうです。同じ「美容へ行く」でも、攻めで行くのか守りで行くのかで、5年後10年後の景色がまるで変わります。

増えているのは、個人の心変わりではなく社会構造の変化

まず押さえておきたいのは、直美が増えた理由が若手の根性の問題ではないということです。保険診療の先行きに不安があり、労働時間あたりの報酬に差があり、働き方の融通が利く。そちらに人が動くのは、構造として自然なことです。

だから、直美を選んだ若手を頭ごなしに批判するのは違うと思っています。社会構造の変化によって起きていることを、個人の資質の問題にすり替えても何も解決しません。

アイジュアイジュ
保険診療が不安だからそっちへ、という流れ自体は社会の変化によるものなので、完全に悪として扱うのは違うと思うんですよ。
ゆーゆー
ただ、気になるのはその先です。5年後10年後にうまくいかなかったとき、次の手があるのかどうか。

「消極的な転向」が危ないと言える理由

危ういのは、今いる場所がつらいから離れるという動機だけで進む場合です。この選び方には二つの問題があります。

一つは、うまくいかなかったときの次の手が用意されていないこと。美容医療も競争のある市場です。数年後に自分の想定どおりにならなかったとき、戻る先も進む先もない状態だと、選択肢がゼロになります。

もう一つは、逃げる動機で選んだ場所は、同じようにつらくなったときにまた逃げる対象になることです。軸が「嫌なものから離れること」にあるかぎり、どこへ行っても同じ判断を繰り返すことになります。

つまり問題は行き先ではなく、選択の起点がどこにあるかです。

攻めの自費診療なら、まったく問題ない

逆に、この世界で花を咲かせたい、この技術を突き詰めたい、という攻めの選択としての美容なら何の問題もありません。むしろ明確な目標を持って早く入るぶん、有利に働きます。

自費診療は、保険診療と違って自分で価値を作り、自分で値づけをする世界です。そこに面白さを感じて飛び込むのであれば、それは立派な戦略です。批判されるべき選択ではありません。

同じ「直美」という言葉でくくられていても、中身は正反対のことがあります。外から見て区別がつかないだけで、本人の中では全然違うはずです。

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戻る先があるかどうかで、精神の安定がまるで違う

私たちが専門医を取っておいたほうがいいと言い続けているのは、この点に関わります。

専門医があると、その領域のスタンダードな知識は持っている、という保証になります。持っていないと、あなたは何をやってきたのかと問われたときに答えるものがありません。

そして内科の専門医を取ってから美容に行くことは、普通にできます。4、5年の違いは確かにあります。ですが、こけたときに戻る先があるかないかで、日々の精神の安定がまるで違います。追い詰められた状態で判断すると、だいたいろくな結果になりません。

可能性を狭めるなら、その道の頂点まで行く覚悟が要ります。それを持てる人は、同世代の医師の中でも数千人に数人でしょう。自分がその一人だと言い切れないなら、選択肢を残す側に賭けたほうが合理的です。

ゆーゆー
専門医を持っていると、その領域のスタンダードな知識はありますよ、という保証になるわけなので。
アイジュアイジュ
僕は自分に特殊能力がある自覚がないので、選択肢を残す側に賭けています。

美容の現場のほうが学べることもある

ただし、美容=学びが少ない、と決めつけるのも正確ではありません。大学病院にいても雑用で終わってしまう科はありますし、体制の整った美容の現場のほうが手技を学べることもあるのが実際です。

さらに言えば、手技そのものがロボットやAIに置き換わっていけば、手に職という前提自体が崩れます。過去の成功事例が当てにならない時代に、昔の常識でキャリアを語っても仕方がありません。

だからこそ、判断の基準を「どの科が有利か」ではなく「自分が何に向かっているか」に置いたほうが、時代の変化に耐えます。

問われているのは、何から離れるかではなく何へ向かうか

直美や美容への転科を考えている人に伝えたいのは、この一点に尽きます。

  • つらいから離れる、という動機だけで決めない
  • うまくいかなかったときの次の手を、決める前に用意しておく
  • 専門医など、戻る先になるものを持っておくと判断が落ち着く
  • この世界で勝負したい、という攻めの選択なら迷わず進んでいい

美容を選ぶこと自体は、逃げでも正解でもありません。決めるのは行き先ではなく、その選択が自分の何に向かっているかです。