「フランスでは、医者はそんなに稼げる仕事じゃないよ」。ベトナムの病院で働くアイジュが、フランス人の同僚と給料の話をしていたときのことです。そこまでは、日本とよく似た話でした。驚いたのは最後の一言です。

「でも、有給は9週間だけどね」。

給料は全国一律、20年上がっていない

アイジュの勤める病院には、フランスで医師をしていた同僚が多くいます。彼らによると、国公立で保険診療をしている医師は公務員に近い扱いで、給料は国が決めています。パリでも地方でも同じ額です。

研修医や専攻医の時期は低く、経験を積むと上がる。ここまでは日本と同じです。違うのは上がり幅で、10年、15年働いても1.5倍ほどにしかなりません。

聞いた金額は、税引き後で月3,000〜4,500ユーロ。残業を月に数十時間乗せても、5,500〜6,000ユーロ程度だそうです。バイトは一切できません。

アイジュアイジュ
5年前、10年前と変わってないって言ってたら、隣の同僚が「20年前と変わってないもんね」って。日本と同じだなと思いました。20年前の3,000ユーロならまだ良かったけど、いまのパリで3,000ユーロじゃ生活できないって。

パリの物価は東京よりかなり高い。アイジュの見立てでは、月80時間ほどの残業をして手取り100万円前後です。円安の今、日本円に直すと多く見えますが、フランス国内の感覚では満足度の高い職業ではない、というのが彼らの自己評価でした。

5週間の有給に、働きすぎた分が上乗せされる

9週間という数字には仕組みがあります。フランスでは法律で年5週間の有給休暇が決まっていて、ここは医師も会社員も同じです。医師の場合、これに残業分の休みが加わります。

当直明けを含め、病院で働いていれば時間外労働はどうしても出ます。フランスではそのオーバーワーク分を一定時間ごとに1日の休みに換算して、返さなければならない決まりがあるそうです。お金ではなく、休みで精算するのです。

番組の切り抜き。元の回は【8-3】産業医のニーズは、まだ増える

結果として、実質年に2か月以上休めることになります。給料の話ではため息をついていた同僚も、この点だけは「めちゃくちゃいいとは言わないけど、休めるよ」と言っていたそうです。

日本の医師と比べると

日本の年次有給休暇は、労働基準法で勤続年数に応じて年10日から最大20日です。フランスの法定5週間は、土日を除いて数えると25日。これだけで日本の最大日数を上回ります。そこに代休が乗ります。

日本でも2024年4月から医師の時間外労働に上限が設けられました。ただ、上限を超えないように「働かせない」方向の管理が中心で、超過分を休みとして返す発想はほとんどありません。そもそも有給を使い切っている勤務医のほうが少数派ではないでしょうか。

ゆーゆー
事情としては本当に一緒だと思うんです。日本の医師も、相対的には公務員の給料に落ち着いていくイメージがなんとなくあります。
PODCAST

医局の外で会いましょう

医局を抜けた2人の医師が、キャリア・お金・生き方を本音で語るVideo Podcast。

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先進国の医師は、同じ方向に向かっている

給料が上がらないのはフランスだけの話ではない、というのが2人の見立てです。高齢化が進み、国民皆保険を維持する先進国は、どこも医療費を抑える側に回っています。保険診療の単価を国が決める以上、医師の給料が物価に追いつかないのは構造的な話です。

例外として挙がったのがアメリカでした。国民皆保険を持たない先進国です。アイジュの勤務先では、採血1回が日本の保険点数の10倍ほどかかります。それでもアメリカ人の患者さんは「この項目数でこの値段は安い」と喜んで帰っていくそうです。日本なら20万円ほどで済む人間ドック相当の検査が、アメリカなら3万ドルはかかる、というのがアイジュの感覚です。

アメリカ型にすれば医師はもっと稼げる。そう考えるのは医師と富裕層くらいで、実際にそうなれば混乱する、というのが番組での結論でした。

「稼げない」の次に、何を取りにいくか

フランスの医師は、給料の伸びを諦めた代わりに、休みを制度として確保しています。日本の勤務医は、給料の伸びも、休みも、まだどちらも確保できていません。

日本の医師の給料が今後大きく上がる見込みは薄い、と2人は考えています。だとすれば、自分は何を取りにいくのか。時間なのか、保険診療の外の収入なのか。給料以外の条件を、自分で交渉できる働き方を持っているかどうかで、この先の差は開いていきます。9週間という数字を聞いて、あなたが最初に感じたのは羨ましさでしたか、それとも諦めでしたか。