「やってみたい」が、いつまでも検討中のまま
副業、転職、医局を出ること、海外で働くこと。興味はあるのに、気づけば何年も「検討中」のまま。医師と話していると、そういう人によく出会います。
ポッドキャスト「医局の外で会いましょう」の【19-2】で、ゲストの公認会計士・税理士の長谷川先生がこう言いました。身近な医師を見ていると、頭で考えすぎて動けなくなっているように見える、と。
長谷川先生は、父も兄弟も医師という家庭に育った人です。医師を外から批判しているのではなく、いちばん近くで見てきた人の実感でした。ここから、医局を出たアイジュさんとゆーさんの話は「なぜ医師は挑戦できないのか」に流れていきます。
医師の仕事は、そもそも「挑戦しない」ことでできている
2人の答えははっきりしていました。挑戦できないのは、医師の性格が臆病だからではない。仕事そのものが、挑戦を消す方向にできているからです。
アイジュ
ゆーゆーさんは消化器内科の医師です。診断がついて治療方針が見えれば、話はシンプルで進みやすい。逆に、見えないときは不安でたまらない。これは良い医師の条件でもあります。命がかかっている場面で、慎重な医師のほうが患者は安心できるからです。
問題は、この作法が診察室の中だけで終わらないことです。
問題は、その作法を「生き方」にまで持ち込むこと
リスクを全部洗い出し、全部に対策を打ってから動く。診療ではこれが正解でも、キャリアや生活で同じことをすると、いつまでも動けません。キャリアの選択には、診断のような確定がないからです。
ゆーさんは、この癖が日常やバイトの選び方にまで染みつき、しがらみになって医局を抜けられなくなるのが典型的な医師の働き方だと話していました。医局にいることが幸せなら、それでいい。ただ、出たいのに出られない理由が「リスクを潰しきれないから」なら、それは仕事の作法が生き方を縛っている状態です。
アイジュさんはもう一歩踏み込みます。失敗を恐れる典型的な日本人の、いちばん極端な例が医師なのではないか、と。常に優秀であれ、と求められ続けてきた人たちだからこそ、失敗した自分を想像するだけで足が止まる。
挑戦できない医師に、よくある考え方
- 起きていないリスクを全部洗い出してから決めようとする
- うまくいく確信が持てるまで、動き出さない
- 失敗した姿を周りに見られることを、何より避けたい
- 辞める・変えるより、現状維持のほうが「安全」だと感じる
どれも診療の場では美徳です。だからこそ、自分で気づきにくいのです。
直感で始めて、あとから困る人がうまくいく理由
対照的なのが長谷川先生です。新しいことをやるかどうかは、直感で面白そうかどうかで決める。リスクはあまり考えない。始めてから問題が出てきて「どうしよう」となり、誰かが助けてくれて、なんとかなる。うまくいかずにやめたものもあるけれど、いま残っているものは、やってみたら色々あったけれどなんとかなったものだそうです。
名古屋の税理士だった長谷川先生は、旅行のついでに八重山で名刺を配っていたら本当に依頼が来て、最終的には石垣島に拠点を移しました。最初から移住を計画していたわけではありません。動いたあとに、次の道が見えてきた例です。
アイジュここで大事なのは、「医師もリスクを無視しろ」という話ではないことです。命に関わる判断は、これからも慎重であるべきです。リスクの取り方を、場面で切り替える。それが2人の結論でした。
「白衣を脱いだモード」を持つ
ゆーさんの言葉を借りれば、医学的な挑戦ではなく、生き方としての挑戦をするなら、白衣を脱いだ別のモードにならないと難しい。アイジュさんも、白衣を脱いだ瞬間に考え方が変わるタイプだと話していました。
モードを切り替えるために、番組の話から引き出せる考え方を3つ挙げておきます。
1. 「最悪の場合」を診断せず、小さく試す
全部のリスクを洗い出してから決めるのではなく、失っても困らない大きさで先に始めてみる。非常勤を1コマ変えてみる、興味のある分野の人に1人会ってみる。小さく始めれば、失敗しても取り返しがつきます。
2. 失敗を「経過観察」と捉える
うまくいかなかったら、やめればいい。長谷川先生にも、やめた事業があります。診療と違って、生き方の選択は途中で方針を変えても誰の命も危うくしません。
3. 「優秀な自分」のプライドを手放す
アイジュさんは、プライドを捨てなければ自分たちのような人間は生まれなかった、と話していました。医局の外で働く医師は、どこかで「できない自分」を見せることを受け入れています。
ゆー挑戦する背中は、誰かに火をつける
続く【19-4】で、長谷川先生は自分の目標を語っています。出る杭を打たれてきた日本人に火をつけたい。挑戦して失敗しても、あがき続ける背中を見せることで、誰かが自分もやってみようと思えるように、と。
医師が白衣を脱いで何かを始めることも、同じ力を持っています。後輩の医師にとって、医局の外で働く先輩の姿は「そういう道もある」という何よりの証拠になるからです。
まず、診察室の外で1つ決めてみる
医師が挑戦できないのは、医師として正しく訓練されてきたからです。だから自分を責める必要はありません。必要なのは、その作法を使う場面と、使わない場面を分けることだけです。
今週、白衣を脱いだあとに、ひとつだけ直感で決めてみてください。調べ尽くす前に、まず会ってみる、申し込んでみる。その小さな一歩が、次の道を見せてくれるかもしれません。