保険証が1枚あれば、いつでも、どこでも、専門医に診てもらえる。ベトナムの病院で働くアイジュさんは、日本の医療のこの性質を「本当にすごい。素晴らしい」と言います。そして、すぐにこう続けました。
アイジュ誰もが行けて、誰もが並ぶ
日本の医療は、全員が公的保険に入り、同じ値段で、同じ窓口に並ぶ仕組みです。所得が高い人ほど保険料は多く払いますが、受けられる医療は変わりません。お金を上乗せして順番を早めることもできない。
アイジュさんは、資本主義の国から見ればこれは社会主義的に見えるはずだと言います。お金を持っていても、社会への貢献度が高くても、みんな同じように待たなければならない。それを不公平だと感じる人は確実にいる、と。
ゆー同じ制度が、見る角度によって「平等」にも「不平等」にもなる。どちらが正しいかではなく、日本人の多くが前者の見方しか知らない、というのが2人の指摘です。
ベトナムの国際病院で、ヨーロッパの患者が感動する
アイジュさんが働くのは、ベトナムにある外国人向けの国際病院です。そこにヨーロッパから来た患者は、多くが感動して帰っていくそうです。
理由ははっきりしています。数百ドルから数千ドルを払えば、きれいな設備で、待たずに全部診てもらえる。自分の国の私立病院にかかるよりも安いか同じくらいで、しかも早い。イギリスの患者からは「本国なら3倍払っても、もっと古い病院でしかやってもらえない」という声が出ます。駐在員で、保険でカバーされている人が多いのも背景にあります。
イギリスの公的医療(NHS)は無料ですが、専門的な治療は何か月も待つのが普通です。待てない人、待ちたくない人は私立病院に行く。お金のない人は待つ。公的と私的が分かれているのは世界では普通のことで、日本のように保険診療だけでほぼ完結している国のほうが珍しい、というのがアイジュさんの見方です。
韓国は保険診療が安く、自費で稼ぐ
番組では韓国の例も出ました。韓国人の知人に聞いた話として、風邪で受診したときの保険の自己負担は1000円ほどと日本より安い。ところが実際に払う額は8000円くらいになる。せっかく来たのだから、とニンニク注射や点滴、ビタミン剤、美容の相談、人間ドックのパッケージが勧められ、それを受ける文化があるからです。
保険の部分は安く抑え、保険の外で医療機関が稼ぐ。医師の収入もそこで支えられている。コレステロールの薬のように保険で必要なものをもらうだけなら韓国のほうが安いので、そのために帰国する人もいるそうです。
日本で同じことはできません。日本では、保険診療と自由診療を同時に受けると、原則として全体が自費になります。いわゆる混合診療の禁止です。例外は、先進医療などの評価療養、差額ベッドや紹介状なしでの大病院受診などの選定療養、患者申出療養に限られています。
公的と私的は、日本でも分かれていくのか
話のきっかけは、アイジュさんの老後でした。老後は日本に戻るつもりでいる。でもそのときに医療保険制度が変わっていたら、戻る意味が薄れるかもしれない。そこから、日本の医療は今の形のままなのか、という話になりました。
2人の見立ては近いところにあります。公的な保険だけで支えるのは限界に来ている。お金を持っている人が私的なサービスで早く受けたいというニーズは高まっている。日本政府が皆保険一本にどこまでこだわるか次第ですが、混合診療はどこかのタイミングで広く認めざるを得なくなる。それもそんなに遠くない未来に、というのが2人の読みです。
医師の側から見ると、これは働き方の選択肢の話でもあります。保険の枠の外で、お金を払ってでも早く、丁寧に診てほしい人に向き合う仕事は、すでに日本にもあります。ゆーさんが続けているパーソナルドクターもそのひとつです。ベトナムの国際病院で働くアイジュさんの実録や、フランスの医師の働き方と並べると、日本の「当たり前」がどれだけ特殊かが見えてきます。
平等か、不平等か
誰でも、どこでも、同じ値段で専門医にかかれる。この仕組みに救われた人は数えきれません。一方で、払った分だけ早く診てもらうという選択肢は、日本ではほとんど用意されていません。
海外で医師をしていると、両方の見え方が手に入ります。あなたには、日本の皆保険はどちらに見えますか。